茶の木に覆いをかける理由|「被覆栽培」について徹底解説
はじめに
茶園では、茶の木に覆いをかけて日光を遮る「被覆栽培」という特別な栽培方法が行われています。
この被覆栽培によって、どのような変化が茶葉にもたらされるのでしょうか。
被覆栽培とは
被覆栽培とは、茶樹に覆いをかける栽培方法です。日光を遮り、保温を行うことで、新芽の成長がゆっくりとなり、葉が硬くなるのを防ぐことができます。
その結果、摘採期間を長く設けることが可能となり、より柔らかく、旨味のあるお茶を収穫することができるのです。
また、保温することによって霜を防ぎ、かつ摘採時期を早めることができます。
被覆栽培の目的
被覆栽培の一番の目的は、茶葉の品質を向上させることです。日光を遮ることは、茶葉の成分に大きな変化をもたらします。
まず、遮光によって茶葉のアミノ酸類やテアニンの減少が抑えられます。これらは、お茶の旨みや甘みのもととなる重要な成分です。
遮光効果①苦みが減少
テアニンは日光に当たるとカテキン(苦みや渋みの成分)に変化しやすい性質があるのですが、遮光することでこの変化が抑えられるため、苦みが少なく、よりまろやかで甘みのあるお茶に仕上げることができます。
一方で、さっぱりした苦みを演出するといわれるカフェインは遮光することで減少が抑えられます。
つまり、被覆栽培のお茶は、通常の茶葉に比べて、より深いコクと豊かな風味を楽しむことができるのです。
遮光効果②色合いが鮮やかに
また、遮光によって茶葉は鮮やかな緑色に育ちます。これは、わずかな光を有効活用するためにクロロフィルが増えるためです。
この美しい緑色は、被覆栽培ならではの特徴であり、視覚からもその特別さを物語っています。
遮光効果③独特の香り
さらに、被覆栽培独特の「覆い香」と呼ばれる、青のりのような爽やかな香りが付くことも魅力の一つです。
被覆栽培で作られるお茶の種類
被覆栽培によって作られるお茶には、玉露、碾茶、そしてかぶせ茶の3種類があります。
玉露・碾茶
玉露と碾茶は、茶園全体を覆い、長期間遮光することで、鮮やかな緑色と濃厚な旨味、そして香りが特徴の最高級茶に仕上がります。
特に玉露は、日本茶の最高峰として知られています。一方、碾茶は、抹茶の原料となるお茶で、玉露と同様に高い品質が求められます。
煎茶は太陽の光をいっぱいに浴びて育つのに対し、玉露や碾茶は、茶園全体を覆い、日光を遮断した特別な環境で育てられます。
具体的には、新芽がほんの少し開いた頃に、まず55~60%ほどの光を遮る覆いをかけ、その後、さらに遮光率を95~98%まで高めて、ほぼ暗闇に近い状態で育てます。
そして、覆いを始めて約20日後、新芽が最も美味しくなる頃に収穫が行われます。
かぶせ茶
かぶせ茶は、玉露や碾茶よりも短い期間、簡易的な覆いを施すことで、煎茶に玉露のような風味を加えたお茶です。
遮光期間が7日程度と短いため、玉露や碾茶ほど濃厚な風味ではありませんが、煎茶よりもまろやかで上品な味わいが特徴です。
ほぼ暗闇に近い状態で育てる玉露・碾茶に対して、かぶせ茶の場合は、遮光率を低く設定したり、覆う期間を短くしたり、あるいは茶樹に直接覆いを掛けるなど、お茶の品種や目指す品質に合わせて、細やかな調整が行われます。
このような工夫によって、水分が多く、繊維成分が少ない、柔らかくみずみずしい葉を育てることができるのです。
覆いに使う材料には、よしずや藁、こもといった伝統的な素材から、現代的な黒色寒冷紗まで、様々な覆い材が用いられます。
まとめ
このように、被覆栽培は、お茶の風味を格段に高める特別な栽培方法です。
このような特徴を持つお茶として、玉露やてん茶が有名ですが、これらの高級茶は、その濃厚な旨味、芳醇な香り、美しい緑色など、高い品質が評価され、茶道や特別な場面で珍重されています
玉露やてん茶の持つ魅力は、被覆栽培という特別な栽培方法によって生み出されているのです。