「やぶきた」だけじゃない!|お茶の品種図鑑
はじめに
「お茶」とひとくくりに言っても、その品種は実に様々です。
私たちが普段口にするお茶も、品種によって風味や香りが大きく異なります。
日本の茶園を席巻する「やぶきた」
日本の茶園で最も多く栽培されているのは、「やぶきた」という品種です。
その作付面積は全国の茶園の70%以上を占め、まさに日本茶の顔と言える存在です。
「やぶきた」がこれほどまでに普及した理由は、その根付きやすさにあります。
明治時代に静岡県の杉山彦三郎によって選抜された「やぶきた」は、品質が高いうえに寒さや病気に強いことから栽培もしやすく、安定した収量が見込めました。
そのため、多くの茶農家から選ばれ、全国的に普及しました。
「やぶきた」だけじゃない!多様な品種の魅力
ただ、留意しておきたいのは、「やぶきた」が圧倒的なシェアを占めていますが、やぶきた以外の品種も素晴らしい個性を持っているということ。
香りに特徴があったり、樹勢(成長の勢い)が良かったり、その個性は様々です。
2020年時点で農林水産省に登録されているのは120品種ですが、そこに登録されておらず研究機関で名前が付けられて普及しているものを含めるとその倍を超える品種があります。
その中でも代表的なものを以下でご紹介します。
収穫時期を分ける理由
お茶の品種は、大きく分けて「早生種」「中生種」「晩生種」の3つに分類されます。
これらの種は生長の進度が異なり、地域差もありますが、早生種は5月頭前後に、晩生種は中生種の約2週間度に収穫期を迎えます。
茶園では、これらの品種を組み合わせて栽培することで、収穫時期を分散させ、作業効率を上げたり、様々な種類の茶葉を生産したりしています。それぞれの品種は、収穫時期も異なれば、お茶の風味も異なります。
早生種は香りが高く、爽やかな味わいが特徴ですが、一方の晩生種はコクがあり、深みのある味わいが特徴です。
栽培する地域や目的によって最適な品種が選ばれています。
主な品種の特長
さえみどり(生産地:宮崎県、鹿児島県)
近年、鹿児島県を中心に普及しているやぶきたと、天然の玉露といわれる「あさつゆ」を掛け合わせた品種です。
名前の通り、鮮やかにさえたグリーンの水色と上品な香り、渋みが少なくてうまみ成分が非常に多いのが特徴です。
煎茶から玉露、抹茶まで幅広い用途で栽培されています。藪北の新鮮な香りとあさつゆの独特な味わいを併せ持ち、主に深蒸し煎茶に。鮮やかな緑色で渋みが少なく、うまみが強いです。
香駿(生産地:静岡県)
静岡県茶業試験場が「くらさわ」と「かなやみどり」という品種を交配して1970年に誕生した、新しい品種です。2000年に品種登録されました。
その名の通り、香りが非常に特徴的なお茶として知られています。新茶の新鮮な香りにジャスミンに通じるような香りが混ざった、爽やかな香味が特徴です。
この爽やかな香りは、若い世代の女性を中心に人気を集めています。
ゆたかみどり(生産地:宮崎県、鹿児島県)
天然の玉露といわれる「あさつゆ」の自然交配種を用い、静岡県で登録された品種です。
やぶきたに次いで普及しており、二番目の生産量を誇る品種となっています。寒さに弱い一方で病気には強く、温暖な地域では多くの収穫量が得られることから、主に鹿児島県や宮崎県で栽培されています。
濃厚な水色と独特な香り、コクのある味わいが特徴です。
しゅんめい(生産地:宮崎県、鹿児島県)
ゆたかみどりとたまみどり×S6の交配種。静岡の野菜茶業試験場で育成され、1988年に命名登録されました。
テアニンが多く含まれており、まろやかなうま味と自然な甘みが特徴です。早生品種の中では最も緑が濃いといわれています。
栽培はしやすく収量が多いのですが、霜には弱いため、静岡以南の温暖な地域で栽培されています。
やぶきた(生産地:全国各地)
1908年、杉山彦三郎が選抜した茶樹から始まり、現在日本で一番多く栽培されているチャの品種です。
うまみ、渋み、香りなどのバランスが取れた品質を誇り、収穫量に優れています。全国で広範囲に栽培されている、安定した品種です。
香りはフレッシュで味が濃く、茶の品質審査の基準にもなっています。
べにふうき(生産地:埼玉県、静岡県、三重県)
べにふうきは、1993年に農林登録された比較的新しい品種です。紅茶用の品種「べにほまれ」と「ダージリン」を交配して作られました。
開発当初は紅茶としての利用が期待されていましたが、近年では緑茶としての需要も高まっています。渋みと濃厚な香気が特徴的で、渋みの出る二番茶や三番茶をブレンドすることが良く行われています。
べにふうきには、他の茶葉よりも多くの「メチル化カテキン」という成分が含まれており、この成分は、抗酸化作用や花粉症をはじめとするアレルギー抑制効果があると言われていますが、紅茶にするとメチル化カテキンの効果はなくなってしまいます。
「べにふうき」緑茶の機能性表示には「花粉」の文言が追加されています。
さみどり
「さみどり」は、京都府を中心に栽培されている、日本で一番生産量が多い碾茶用の品種です。
京都府の小山誠二郎が選抜した宇治の在来種が由来で、上品な旨味と香りが特徴の高級茶として知られています。
葉に光沢があり、味、香味に優れています。碾茶だけでなく、玉露や煎茶にも向いていて、年ごとのばらつきが少なく、品質の高い品種です。
さやまかおり
埼玉県狭山市で「やぶきた」の自然交配から選抜された品種です。1971年に品種登録され、現在は全国で5番目に多い栽培品種となっています。
立ち上る香りと引き締まったコクのある味わいが特徴です。寒暖差が大きい関東や西日本の山間で栽培されています。
つゆひかり
静岡県で開発された新しい品種のお茶です。「静七一三二」と「あさつゆ」という品種を掛け合わせて生まれました。
「あさつゆ」は天然玉露としても知られ、その爽やかな風味を受け継いでいます。寒さや病気に強く、安定した品質のお茶を生産できることから、収量が多く、生産者にとっては嬉しい品種です。
明るい緑色で爽やかな香気が特徴で、近年人気が高まっています。
おくみどり(生産地:三重県、京都府、鹿児島県)
静岡県金谷の国立茶業試験場で、静岡県の在来種「静在16」とやぶきたを掛け合わせてできた品種です。爽やかですっきりとした渋みが少ない味わいで、飲みやすいのが特徴です。
欠点やクセが少なく、煎茶、抹茶などに使われています。茶葉を引いた時の色が濃いので、最近は抹茶にする茶農家が増えています。
おくゆたか(生産地:静岡県、福岡県、鹿児島県)
ゆたかみどりと同じように、芳醇な香りが特徴で、上品で優雅な香気と、旨味が強くコクがあるまろやかな、後味がすっきりで爽やかな味わいが魅力です。
渋みや苦味といった味わいが少なくさっぱりとしています。樹勢が弱いため収穫期間も短い反面、品質が高く、全体のほんの1%にも満たない「希少品種」です。
かなやみどり(生産地:静岡県、鹿児島県)
静岡県金谷の国立茶業試験場(現・農研機構野菜茶業試験場)で育成された静岡県の在来種とやぶきたを掛け合わせた品種です。育成場所が金谷であったことからこの名前がついています。
ミルクを連想させるような甘い香りが特徴。その独特な風味から、近年注目を集め、海外でも人気が高まっています。
あさひ
主に碾茶用の品種として、その多くが京都で栽培されています。京都府の平野甚之丞によって選抜された宇治の在来種です。
まろやかな味が特徴の高級抹茶となります。全国茶品評会では常に上位にその名を見る極めて優秀な品種です。
新芽が薄くて軟らかいのが特徴で、新芽の香りも抜群に良いので、抹茶の中で「あさひ」といえば最も高価です。
うじひかり
京都府の中村藤吉が育成した在来種を、京都府立農業試験場茶業研究所が選抜した、碾茶・玉露用の品種です。
あっさりとした中にも旨味と甘みが調和した、上品で奥深い味わいが楽しめます。
展茗
2006年に品種登録がされたばかりの、抹茶・玉露向きの品種です。さみどりの自然交雑から生まれました。
鮮緑色が美しく、抹茶として良好な覆い香に恵まれています。収穫量はまだ少ないのですが、旨味もしっかりとあり、近年人気が高い品種です。
鳳春
さみどりの自然交雑実生から選抜、育成した「鳳春(ほうしゅん)」。京都府の茶業研究所で育成され、2006年に品種登録がなされました。
玉露用品種として期待されています。新芽が直立するため機械摘みに向いていますが、やはり収穫量はまだ少ないです。
さいごに
今回は、日本で栽培されている主なお茶の種類と特徴についてお伝えしました。
普段何気なく飲んでいる緑茶ですが、その種類の多さを知ると飲み比べてみたくなりませんか。
チャの品種や地域を知ってお茶を味わうことで、より好みの茶葉を見つけやすくなるかも知れません。ぜひお好みの茶葉探しに活かしてみてください。