武士たちの強い決意が育んだ、牧之原茶の魅力
はじめに
静岡県牧之原市は、日本を代表するお茶の産地の一つで、特に深蒸し茶の発祥の地として知られています。
深蒸し茶とは、茶葉を通常の蒸し時間よりも長く蒸すことで、渋みが少なく、まろやかな味わいが特徴のお茶です。
牧之原茶の発祥と歴史
牧野原茶の産地は、大井川の西岸と牧野原大地周辺に広がります。
牧野原は、現在では静岡県内の全生産量の三割以上を算出するお茶の産地ですが、江戸時代末期までは作物の育たない荒地でした。
明治維新のころ、生糸と並び輸出品としてお茶が期待されるようになると、山間地が中心だったお茶の栽培を平地にも広げようとする動きになり、同地の開墾が始まったのです。
元武士たちの挑戦と牧野原の変貌
実はこの開墾に携わったのは、明治維新によって武士の任を解かれた徳川藩士を中心とするメンバーでした。
中条景昭を筆頭に集まった元武士たちの、何年にもわたる熱意と血のにじむような努力により、もとは草木も生えないような荒れ地だった牧野原台地は、茶葉の栽培ができるほどの土に生まれ変わったのです。
現在でも牧野原周辺にはこの時代の子孫が地域茶業で活躍しています。
深蒸し製法の誕生と特徴
牧野原は深蒸し煎茶の発祥地とされ、生産しているお茶のほとんどが深蒸し煎茶です。現在主流となっている深蒸し製法は、明治時代に確立しました。
上述したように、元武士たちの努力により、ようやく茶葉が息づく土へと生まれ変わった牧野原でしたが、地形や天候的には恵まれていたとは言えませんでした。
比較的温暖な平地であるため、茶葉が日光を浴びて分厚くなり、通常の蒸し時間では、おいしいお茶に仕上がらなかったのです。
それを受け、明治時代の中期、誘進流の一派を興した戸塚豊蔵や今村茂兵衛らが、同地のお茶の強い渋みを抑えるために、蒸し時間を長くしたことが始まりとされます。
無理な力をかけずに、形状は二の次にしたヨンコン型(茶の形が針状ではなく勾玉状)の製茶法を考案し、普及させました。
この芳醇な香りを持つお茶の評判は日本全国に知れ渡り、今日の「静岡牧之原茶」ブランドの発展につながっていきます。
深蒸し茶の魅力と現代へのつながり
深蒸し茶は、通常の煎茶よりも長く蒸すことで、茶の成分が浸出しやすくコクのある甘味が引き出されます。
また、細胞が壊されることで茶葉が脆くなり、お茶を淹れた際に粉末状の茶葉が浸出。結果として、お茶の色が美しい鮮やかな緑色をしています。
渋みが少なく、まろやかな口当たりなので、お茶が苦手な方でも飲みやすく、大衆に広く受け入れられました。そのまろやかな味わいは、現代も関東を中心に人気を集めています。
まとめ
いかがでしたか。今回は牧野原茶の魅力についてご紹介しました。
牧野原茶は、大政奉還によって突如職を失った武士たちの強い決意と執念によって生まれたお茶です。
荒れ地をここまで有名な茶産地に仕上げるのには、文字通り血のにじむ努力があったことでしょう。
このように時代の変遷に翻弄されながらも。現実を受け入れ前を向いて努力してきた一人一人の意思と熱意が、現在の牧之原茶の品質を支えています。
牧野原の深蒸し茶は、短い時間でも味と水色が浸出することから、現代のライフスタイルに合い、忙しい現代人でも手軽に楽しめるお茶です。
もし、まだ牧之原茶を飲んだことがない方は、ぜひ一度味わってみてください。