古都の薫り、日本茶を牽引する宇治茶の歴史物語
はじめに
宇治茶といえば味、香り、色ともに優れた玉露や碾茶(抹茶の原料)が代表で、玉露の生産量は日本一です。
宇治市を中心に、隣接する京田辺市では玉露を、城陽市では碾茶を盛んに作っています。同じく宇治市に隣接する宇治田原町は、永谷宗円による煎茶発祥の地とされ、こちらでは今日でも煎茶を中心に生産しています。浅蒸しが主流で上品な香りとすっきりとした後味、淡い水色が特徴です。
宇治茶は、その長い歴史と伝統、そして 覆下栽培や宇治田原製法といった独特の製法によって培われた上品な味わいが魅力のお茶です。
宇治茶の歴史
日本における今日のお茶文化は、京都から発展したといってよいでしょう。
宇治茶の歴史は古く、鎌倉時代にまで遡ります。中国の宋から茶の種を持ち帰った栄西禅師が、その種を京都栂尾高山寺の明恵上人に贈ったことが始まりと言われています。
明恵上人は、この茶種を宇治の地で栽培し、茶園を開きました。これが京都での本格的な栽培の始まりであり、宇治茶、ひいては日本茶の起源となりました。
室町時代になると、足利義満が宇治に七茗園を開き、お茶の生産を開始。茶道文化の中心地として発展していきます。以降、安土桃山時代に覆い下茶園(被覆栽培)が起こり、十八世紀中ごろには永谷宗円が今の製茶製法の礎を築き、幕末には玉露の製法も確立しました。
江戸時代には、宇治茶は将軍家への献上品として重宝され、宇治茶師たちは「お茶壺道中」と呼ばれる江戸までの新茶運搬を担いました。この制度は250年もの間続き、宇治茶の品質と名声を全国に広めることに大きく貢献しました。
宇治で生まれた独特の二つの製法
宇治市では主に玉露と碾茶が生産されていますが、新芽の生育中、茶園を遮光資材で被覆し、一定期間光を遮って育てる「被覆栽培(覆い下栽培)」という方法が採られています。光を遮ることで、旨味成分を増やして上品な香りを引き出すことができ、鮮緑色でまろやかな甘味のある茶になります。
この栽培方法は、宇治茶の品質を保つ上で重要な役割を果たしています。この被覆栽培(覆い下栽培)で作られる、かぶせ茶、玉露、碾茶のことを、被覆茶(覆い下茶)といいます。
そのほか、煎茶発祥の地である宇治田原で開発された「宇治田原製法(青製煎茶製法)」というものもあります。これは、蒸した茶葉を手で揉み、乾燥させるという、現代の緑茶製法の礎となる方法です。
それまでのお茶と言えば、文字どおり茶色をしていましたが、宇治田原町湯屋谷で茶業を営む永谷宗円が、当時宇治で取り扱われていた抹茶の製法にヒントを得て、独創的に蒸製法の煎茶を編み出しました。
それは、蒸した茶の芽をいったん急激に冷却し、次に高温の焙乾炉(ほいろ)の上で手でも揉みながら乾燥、整形するという方法です。これにより、今までにはなかった鮮やかな緑色で味も香りもたいへん素晴らしい緑茶を作り上げたのです。
現在、全国各地で行われているお茶の製造は機械化が進んでいますが、製茶機械は宇治製法の手揉みの工程をベースに開発されています。
宇治煎茶の特徴
宇治煎茶の原料となる茶葉には、やぶきた、おくみどり、あさつゆなど、様々な品種があります。当然ながら、品種によってそれぞれ個性があり、味や香りは異なるのですが、総じて宇治茶には、「渋みが少なく、まろやかな口当たり」という特徴があります。それはなぜでしょうか。
これには、宇治の気象条件と日本茶の生産・文化の中心地である宇治市ならではの社会的背景があるといえます。
京都府南部にある宇治市は、山城盆地に位置し、昼夜の寒暖差が激しい地域です。
お茶の木は寒暖差が大きいほど、香りが引き立つといわれています。さらには、昼間光合成した葉が夜の冷気によって休まり、養分が蓄えられることで、コクと甘みが引き出されるのです。
また、宇治川で発生する川霧も、宇治茶の美味しさに大きな影響を与えています。霧によって茶の葉に直接日光があたりにくくなり、新芽を柔らかく保つことができます。
このような地理的条件に恵まれた宇治茶は、茶葉の種類を問わず、旨味成分がしっかりと引き出されて、まろやかな甘みがある、みずみずしい味わいの爽やかなお茶へと仕上がっているのです。
また、千年以上の歴史を持つ宇治は、古くから茶栽培が盛んで、数多くの茶園が軒を連ねてきました。
被覆栽培や宇治田原製法などいち早く革新的な技術を取り入れ熟練した茶農家が、さらにより良いお茶を生み出そうと栽培環境や製法に工夫を重ね、品質と多様性を高めてきたのです。
京都という場所柄、天皇家や朝廷と距離が近く、長きにわたり皇室や将軍家御用達のお茶だったという歴史も、宇治茶の品質向上を後押しし、茶の一大産地へと発展させたと言えるでしょう。
まとめ
鎌倉時代から続く長い歴史と伝統があり、日本を代表するお茶として愛されている宇治茶。その人気は日本国内にとどまらず、海外からも「UJICHA」として注目を集めています。
ちなみに京都府では、宇治茶の伝統と文化を後世に継承し、茶業の振興を図るため、通称「宇治茶条例」(正式名称:京都府宇治茶普及促進条例)が制定されています。この条例は、宇治茶の生産者、販売業者、そして府民一人ひとりが、日常生活において宇治茶に触れ合い、宇治茶の伝統と文化、その価値を認識し、その普及に努めることを目的としています。
長い歴史を持ち、現在も府民一丸となってその価値と魅力の発信に力を入れている宇治茶は、深い歴史と熟練の技が育んだ、世界に誇る日本茶です。