
東方美人とは?|高級台湾茶の魅力、虫と自然が織りなす神秘
台湾が誇る高級烏龍茶、「東方美人」。
100gあたり1万円を超えるものも珍しくないこの茶葉は、害虫として知られるチャノミドリヒメヨコバイ(通称ウンカ)によって生み出される、まさに自然の奇跡とも言える存在です。
6月頃、茶畑に大量発生するウンカは、茶葉の汁を吸い、その葉に傷跡を残します。
通常、ウンカは農薬によって駆除される対象ですが、東方美人を生産する地域では、あえて農薬を使用しません。
ウンカに吸われた茶葉は、傷ついた部分に抗体反応を起こし、「ジオール」という物質を生成します。
このジオールが製茶工程で加熱されることにより、「ホートリエノール」という成分に変化し、蜜のように甘く、爽やかな香りを生み出すのです。
これが、東方美人特有の「蜜香」と呼ばれる香りです。
しかし、虫食いの茶葉から作られる東方美人は、当初、台湾の庶民の間でのみ楽しまれていました。
その価値が広く知られるようになったのは、ある商社がその風味に魅了され、輸出を開始したことがきっかけとされています。
特にイギリスでは、その独特の風味が人気を博し、「オリエンタルビューティー(東方美人)」と呼ばれるようになりました。
ヴィクトリア女王が愛飲したという逸話も残っていますが、残念ながら史実としての裏付けは取れていません。
ウンカが茶葉に与える影響は、烏龍茶だけでなく、紅茶にも見られます。
インドのダージリンティーでは、夏摘みの茶葉にウンカの影響による「マスカテルフレーバー」と呼ばれる独特の香りが現れます。
マスカットを思わせるフルーティーで爽やかな香りと、奥深い渋みが調和したその風味は、多くの紅茶愛好家を魅了しています。
害虫による被害を、逆転の発想で最高級の風味へと昇華させた東方美人。
自然の力を最大限に活かした製法と、人々の知恵と努力が、この唯一無二の烏龍茶を生み出したと言えるでしょう。
日本では衛生上の観点から、虫食いの茶葉を使った緑茶が市場に出回ることはありませんが、いったい虫たちが選んだ緑茶はどんな味がするのでしょうね。一度味わってみたいものです。