正月の余韻と旨味が重なる、新年の一服。
コース料理の最後に小さなエスプレッソが添えられるように、“食後のお茶” があることで、一皿の余韻はさらに広がります。家庭でつくれる身近な料理に合わせて、伝統あるお茶の魅力を再発見していただく企画。料理の背景や作り方の工夫、そしてその一杯が生み出す調和を、料理研究家の夏井景子さんと担当編集者の対話を通じて紐解いていきます。
ー 1月のメニューとして「餅と根菜の揚げ出し」をご提案いただきました。お正月に余ったお餅を生かす視点も印象的ですが、この料理のポイントを教えてください。
夏井 正月を過ぎると、ちょうど餅が余る時期ですよね。そこで、餅に冬野菜の蓮根と人参を合わせて揚げ出しにしました。揚げ出し豆腐の餅にしたイメージで、出汁の効いたタレをたっぷり絡めています。
ー 調理の際に気をつけるポイントはありますか?
夏井 蓮根と人参は、しっかり揚げることで甘みと食感が引き立つので、少し大きめに切るのがポイントです。一方で、お餅は大きすぎると中まで火が通る前に表面だけが揚がってしまうので、やや小さめに切って、火が入りやすいようにしています。
ー 野菜の食感がとても良かったです。硬すぎず、柔らかすぎず。
夏井 餅と同じくらいのサイズ感に揃えたかったんです。人参も輪切りにして、ごろっと存在感を出しています。タレ自体がしっかりした味なので、具材を小さく切りすぎると絡みすぎて重たくなってしまう。そこも意識しています。
ー 揚げるときの注意点はありますか?
夏井 揚げすぎないことですね。お餅がふわっと膨らめば火は通っています。それ以上揚げると、中から餅が飛び出してきてしまうので、様子を見ながら引き上げてください。
ー 餅自体は特別な下処理は必要ないんですね。
夏井 はい、そのまま揚げて大丈夫です。
ー タレもしっかりした味付けで食欲をそそられる味なんですが、大根おろしでさっぱり食べられるのもよかったです。
夏井 揚げ出し豆腐だと片栗粉でとろみをつけることが多いですが、今回は大根おろしを加えています。そうすることで、タレが具材にほどよく絡みやすくなります。鶏肉などを合わせても美味しいですし、意外と幅広く応用できます。お雑煮に少し飽きてきた頃にも、食べたくなる味ですよね!
ー 今回は玉露「上喜撰」に合わせてみましたが、いかがでしたか?
夏井 料理も出汁に甘みがあるので、玉露の旨味とうまく調和します。どちらも旨味が強いのに、ぶつからず、きれいに重なっていく感じでしたね。
ー たしかに、対立するというより“ハーモニー”を感じました。
夏井 そうですね。玉露の旨味が料理の出汁感を消してしまうわけでもなく、逆に料理が玉露を覆ってしまうわけでもない。それぞれが持っている旨味の質が違うからこそ、口の中で重なったときに、より立体的に感じられたのだと思います。
ー どちらも主張はあるんですけど、強く出すぎない。玉露をひと口含むと、さっき食べた揚げ出しの味がもう一度やさしく立ち上がってくるような感じがして、自然と調和していましたね。
ー 1月という季節を考えると、玉露は新年の贈り物にも良さそうですね。
夏井 玉露は毎日飲むお茶というよりも、特別な時間に味わうお茶。だからこそ、一年を通して大切なひとときに飲んでもらえるような気持ちで贈るのも素敵だと思います。
出汁の甘みをまとった餅と根菜の揚げ出しに、玉露「上喜撰」の深い旨味。
重なり合う味わいが、食後に静かな満足感をもたらします。
新年の食卓を穏やかに締めくくる一杯――
“〆は、お茶で。” その余韻が、一年のはじまりに静かな豊かさを添えてくれるでしょう。
今月のレシピ
餅と根菜の揚げ出し(2人分)
【材料】
・餅 2個
・大根 1/6本
・蓮根 100g
・長ねぎ 1/3本
・人参 1⁄3本
・鰹節 大さじ2
・水 100cc
・醤油 大さじ1.5
・みりん 小さじ2
・砂糖 小さじ1
・刻み海苔 適量
【作り方】
①大根をおろす。ザルにあげ軽く水分をしぼる。蓮根は5mm厚の半月に切って水にさらす。人参は皮を剥き5mm厚の輪切りにする。長ねぎは斜め薄切りにする。餅は半分に切る。
②手鍋に水を入れ火にかける。沸いたら鰹節を入れ火を止め蓋をする。10分置く。ザルで漉し鍋に戻し醤油と砂糖を入れる。長ねぎとおろした大根を入れ温める。
③餅を半分に切り、ほんのり焼き色が付くまで揚げる。蓮根と人参も素揚げする。
④器に餅を盛り、2をかけ、刻み海苔をふる。