バレンタインの記憶を、お茶とともに。
コース料理の最後に小さなエスプレッソが添えられるように、“食後のお茶” があることで、一皿の余韻はさらに広がります。家庭でつくれる身近な料理に合わせて、伝統あるお茶の魅力を再発見していただく企画。料理の背景や作り方の工夫、そしてその一杯が生み出す調和を、料理研究家の夏井景子さんと担当編集者の対話を通じて紐解いていきます。
ー 今回はチョコレートテリーヌをご提案いただきました。一般的なチョコレートケーキとは、作り方に違いはありますか?
夏井 テリーヌはケーキというより、生チョコを作るような感覚に近いですね。意外と工程も少なくて、ケーキよりも簡単に作れると思います。形がシャープで見映えがするので、手軽に作れるわりに「ちゃんと感」があって、失敗もしにくい。ぜひ挑戦してみてほしいスイーツです。
ー 作る上でのポイントはありますか?
夏井 混ぜすぎないことですね。チョコレートは空気を含みすぎると、口当たりが重くなってしまいます。本当に必要最低限で大丈夫。すぐ混ざるので、さっと合わせるくらいがちょうどいいです。
ー ベースに使うチョコレートは、どんなものがおすすめですか?
夏井 チョコレートをたっぷり使うお菓子なので、できればクーベルチュールなど、質のいいものを使ってほしいですね。牛乳や生クリームも入って濃厚になるので、甘いタイプよりも、少しビターなチョコレートの方が全体のバランスが取りやすいと思います。
ー 甘さ控えめで、大人っぽい味わいでした。今日はタイムを添えていましたが、あの香りも印象的でした。
夏井 テリーヌは全体が茶色くてシンプルなので、香りや色味で少し変化をつけたくて。ただ、これだけ濃厚なので、生クリームを添えると重たくなってしまう。そこで、味わいを軽くしてくれるハーブとしてタイムを選びました。
ー 今回合わせたお茶は静岡「かけがわ」。実際に合わせてみていかがでしたか?
夏井 正直、想像以上に合うなと思いました。甘すぎないビターなテリーヌと合わせることで、「かけがわ」からフルーティな印象が感じられたのが新鮮でした。まるで紅茶を飲んでいるような。とても面白いペアリング体験でした。
ー たしかに、「かけがわ」自体がとてもバランスのいいお茶なので、チョコレートとぶつかることなく、むしろ新しい風味が生まれているように感じました。ペアリングとして面白い発見でしたね。
夏井 そうですね。すごく新鮮でした。いろいろなスイーツに合わせてみると、また違った表情が見えてきそうだなと思いましたし、価格も手頃なので、気軽に試してもらえるのもいいところだと思います。
ー 2月といえば、やはりバレンタインの季節ですね。今回はチョコレートテリーヌを合わせていますが、贈り物としてはどのように楽しんでもらうのがおすすめでしょうか。
夏井 バレンタインというとチョコレートが主役になりがちですが、そこにお茶を添えることで、味わいの幅も時間の楽しみ方も広がると思います。テリーヌはどうしても濃厚なので、食後やひと息つくタイミングに、「かけがわ」を一緒に飲んでもらえると、甘さの余韻がよりきれいにまとまるんですよね。お茶があることで、“食べて終わり”ではなく、ゆっくり味わう時間まで含めて贈れる気がします。
ー なるほど。チョコレートそのものだけでなく、「その後の時間」まで一緒に贈る、という感覚ですね。
夏井 そうですね。「かけがわ」は味わいのバランスが良くて、気負わず飲めるお茶なので、どなたに贈っても受け取りやすいと思います。テリーヌと一緒に贈れば、甘いものが好きな方はもちろん、普段あまりスイーツを食べない方にも楽しんでもらえる。“ありがとう”や“おつかれさま”といった気持ちを添えるバレンタインギフトとして、ぜひセットで選んでほしいですね。
濃厚でビターなチョコレートの余韻に、掛川茶のやわらかな渋みと香り。互いの個性を打ち消すことなく、重なり合うことで生まれる新しい味わいがあります。
バレンタインの甘い時間を、静かに締めくくる一杯。
“〆は、お茶で。” その提案が、贈り物の記憶をより深くしてくれるはずです。
今月のレシピ
チョコレートテリーヌ(21cm×80cm×6cmのパウンド型1本分)
【材料】
・チョコレート 200g
・バター 90g
・卵 3個
・グラニュー糖 25g
・牛乳 50g
・生クリーム 30g
・小麦粉 10g
・ココアパウダー 適量
・飾り用タイム 適量
【作り方】
①チョコレートは刻む。卵は常温に戻し溶いておく。牛乳と生クリームは一緒にして温めておく。オーブンを180℃に予熱しておく。パウンド型にオーブンシートを敷いておく。
②ボウルに刻んだチョコレートとバターを入れ湯煎にかけ溶かす。
③卵を3回に分けて加える。都度ホイッパーでよく混ぜる。牛乳と生クリームを少しずつ加える。
④ふるった小麦粉を加えゴムベラで混ぜる。型に流す。
⑤バットに入れ、型の半分まで湯を張るり180℃のオーブンで20分焼く。
⑥焼けたら湯煎を外し粗熱を取り冷蔵庫でしっかり冷やす。型から取り出しココアパウダーをふる。

