秋の甘味のあとに、濃厚な旨味を
コース料理の最後に小さなエスプレッソが添えられるように、“食後のお茶” があることで、一皿の余韻はさらに広がります。家庭でつくれる身近な料理に合わせて、伝統あるお茶の魅力を再発見していただく企画。料理の背景やつくり方の工夫、そしてその一杯が生み出す調和を、料理研究家の夏井景子さんと担当編集者の対話を通じて紐解いていきます。
ー ほっこりとした甘みが恋しくなる秋冬にぴったりの「さつまいものプリン」。レシピのポイントを教えてください。
夏井 まず、さつまいもを焼き芋にしてからプリンに加えるのがポイントです。焼くことで甘みと香ばしさが凝縮され、ぐっと濃厚な味わいのプリンになります。
ー 焼き芋は自分でつくれなくても、市販のものでも大丈夫ですか?
夏井 はい、市販の焼き芋でも問題ありません。オーブンで簡単につくれますし、冬の時期は私も焼き芋をまとめて焼いてストックしています。
ー 調理の際に気をつけるポイントはありますか?
夏井 さつまいもを一度濾してなめらかにすることですね。濾すことで口当たりが格段に良くなります。濾さないとなめらかというよりも少しごろっとした食感になります。それも素朴で良いのですが、今回は “とろける口当たり” を目指しました。
ー なめらかでありながら、さつまいもの存在感もしっかり感じられる仕上がりでした。分量のバランスも重要そうですね。
夏井 そうですね。さつまいもを入れすぎると重たくなり、少なすぎると風味が弱くなります。ちょうどいいバランスを探るのがポイントです。それと、さつまいもを加えるとプリンに「す(気泡)」が入りにくくなるので、初心者の方でも失敗しにくいんです。秋冬はかぼちゃに置き換えても美味しいですよ。
ー 今回のお茶は鹿児島の「ちらん」。どんな理由でこのお茶を選ばれたのでしょう?
夏井 プリンはカラメルソースのほろ苦さや、さつまいもの濃厚な甘みがあります。そこに合わせるお茶は、しっかりしたコクと適度な渋みが欲しいと思って、鹿児島の「ちらん茶」を選びました。渋みが強すぎるとカラメルの苦味とぶつかってしまうので、程よい深みのあるタイプがぴったりなんです。
ー なるほど。実際に合わせてみると、甘みと渋みが見事に調和していました。濃厚なのに重たくならず、口の中がすっと締まるような感覚です。
夏井 そうですね。ちらん茶はしっかりとした旨味の中に、濃厚さも感じられるお茶。飲んだ時に満足感がありつつ、甘いものの後でも口が重くならないんです。和洋どちらのスイーツにも合わせやすいと思います。
ー たしかに、今回のような濃厚なプリンにも合いますし、控えめな甘さのスイーツなら、繊細な味を引き立ててくれそうです。
夏井 はい。甘いものが好きな方にはもちろん、コーヒー以外の飲み物を探している方にもおすすめです。ギフトとしても喜ばれると思います。
ー 「甘いもの×日本茶」という組み合わせも、もっと日常に取り入れたくなりますね。
夏井 そうですね。このちらんには甘さを引き立ててくれる力があると感じました。食後の “〆の一杯”としてもぜひ楽しんでいただきたいです。
香ばしく焼いたさつまいもの濃厚な甘みと、鹿児島「ちらん」の濃厚さと渋み。互いの旨味が重なり合い、ひと口ごとに深い余韻が広がります。
甘い時間を上品に締めくくる一杯 —— “〆は、お茶で。” その一服が、冬の食卓をやさしく包んでくれます。
今月のレシピ
さつまいものプリン(100ccの型5個分)
【材料】
・さつまいも 1本(約200g)
・卵 2個
・牛乳(170cc)
・生クリーム(80cc)
・砂糖/カラメルクリーム(35g)
・砂糖(30g)
・水 大さじ1
・熱湯 大さじ1
【つくり方】
①焼き芋をつくる。(もしくは市販の焼き芋でもOK)
さつまいもをよく洗い160度のオーブンで90分焼く。 しっかり竹串が通るまで焼けたら取り出し、粗熱がとれたら皮を剥き、ザルなどを使い裏ごしする。 裏ごししたものを150gにする。
②鍋にカラメルソースの砂糖と水を入れて、中火にかける。 茶色く色付いてきたら、ゆすって鍋全体を均一に加熱し、全体が濃い茶色になるまで煮詰める。 火を止め、熱湯を加えて全体になじませる。プリンの型に流す。
③焼き芋のボウルに溶いた卵と砂糖を入れ混ぜる。 生クリームと牛乳を沸騰直前まで温め、焼き芋のボウルに少しずつ混ぜながら入れる。
④カラメルソースの型に流し入れる。
⑤バットに湯をはり、キッチンペーパーを敷き、型をおく。 160度のオーブンで40分焼く。 そのまま湯が冷めるまでおき、粗熱がとれたら冷蔵庫で冷ます。
⑥プリン型から外し、皿に盛る。

