緑茶の風味を引き出す!お湯の沸かし方一つで味が変わる理由とは?
はじめに
近年では、電気ポットで手軽に沸かすことができるため、お湯を沸かすこと自体が簡単になりました。
しかし、お湯の沸かし方は、古くから茶の品質を左右する重要な要素として考えられてきました。
特に、中国の茶書『大観茶論』では、煮沸の様子について茶の風味を引き出す上で重要な要素として非常に詳細に記述されています。
大観茶論では、煮沸の目的を、茶葉の旨味を最大限に引き出すことと捉えています。単に水を沸騰させるだけでなく、火加減や時間、器など、様々な要素を考慮することで、より深みのある味わいを追求しています。
完璧な煮沸の状態とは?
その中で、お湯を沸かす際、魚の目、蟹の目のような連続した泡が勢いよく立ち上る状態を、茶葉の旨味を引き出す最適な煮沸状態としています。
この状態は、お湯の温度が適切で、茶葉の細胞を壊すことなく、旨味成分を効率的に抽出できることを意味します。まるで、生命力あふれる小さな泡が、茶壺の中で踊っているかのようです。
また、元の国・王禎の「農書」のなかでも「煮沸」について言及されています。
王禎はお湯が沸騰する様子について、沸き始めの小さな泡を「蟹の目」、その後現れるやや大きな泡を「魚の目」、そして大きな泡が連続して沸き立つ音を「松林の風」と表現し、この「松林の風」の状態になったときに、お湯が適切な温度に達したと判断してきました。
この方法は、現在でも湯を沸かす際の基本的な考え方として受け継がれています。
沸騰時間が味を変える
お湯を沸かす過程で、水に溶け込んでいた空気や炭酸ガスは徐々に抜けていきます。
特に、煎茶のように爽やかな味わいを重視するお茶の場合、この炭酸ガスは風味を豊かにする重要な要素です。そのため、沸かしすぎると、炭酸ガスが抜けてしまい、お茶本来の爽快感が失われてしまうのです。
さらに、沸騰時間が長くなるにつれて、水が蒸発し、残った水中のイオン濃度や硬度が高まるという現象が起こります。
この変化は、お茶の味に影響を与え、特に煎茶の場合は、味がぼやけてしまい、本来の旨味が感じられにくくなることが知られています。
一方、抹茶の場合は、硬度が高くなっても味への影響は少ないとされています。
これは、抹茶が濃厚な味わいで、他の成分とのバランスが複雑であるため、硬度変化の影響が相対的に小さく感じられるためと考えられています。
水道水で美味しくいただくための工夫
水道水で沸かしたお湯を美味しくいただくためには、いくつかのポイントがあります。
まず、沸騰したらやかんの蓋を外すか、少しずらして、5分ほど煮沸を続けましょう。これにより、カルキ臭の原因となる塩素が揮発し、溶存空気が抜けて、よりまろやかな口当たりになります。
湯冷ましが必要な場合も、一度沸騰させたお湯を目的の温度まで冷ますことが大切です。
熱湯を急須に直接注ぐと、茶葉が急激に膨張し、表面に細かい泡ができてしまいます。この泡が茶葉を包み込み、お湯が茶葉全体に行き渡らず、せっかくの茶葉の旨みが十分に引き出されません。結果、淹れたお茶は水っぽくなってしまうのです。
まとめ
いかがでしたか。
泡が出てくればイコール沸騰であると捉えている方がほとんどだったかもしれませんが、煮沸には実は非常に深い洞察があり、お茶の風味を最大限に引き出すためには、単に水を沸騰させるだけでは不十分です。
沸騰開始のタイミングや、その後の煮沸時間、さらには冷却方法など、様々な要素が複雑に絡み合い、お茶の味に影響を与えます。
一歩足を踏み出すまでは、想像もしなかった広くて深いお茶の世界。沸騰一つとってもここまで様々なポイントがあります。
お湯の温度や時間、さらには器や水の種類まで、一つ一つの要素が複雑に絡み合い、私たちに豊かな味わいを提供してくれます。お茶の世界は、まさに奥が深く、生涯をかけて探求し続けたいものです。