玉露日和。 issue 04 穀雨の茶会
高級茶として知られる玉露。日光を遮断する「被覆栽培」という手間のかかる特殊な栽培方法と熟練の製造によって生み出される深い旨味と甘みには、他の緑茶と一線を画す奥深い魅力があります。濃厚な旨味、とろりとした口当たり、そして覆い香と呼ばれる特有の香り。高級といわれる玉露だからこそ、まずは真摯に一杯と向き合ってみたい。菓子と茶をクリエーションする「茶菓の会」を主催する彗星菓子手製所のようさんによる季節の菓子と共に、五感を開放し、一期一会の光を味わう、玉露のあるひとときを感じてみませんか。
photo Yumiko Miyahama edit&text Chisa Nishinoiri
今月選んだお茶は…玉露「天下一」濃厚な味で通好みの玉露です。凝縮されたうま味と甘みは、ひと口で違いがわかります。袋入のお茶を和紙の包み袋で、プチギフト、手土産、お返しなどにもお使いいただけます。


今行きて 聞くものにもが明日香川 春雨降りて 激つ瀬の音を
4月20日頃から5月5日頃を、二十四節気では「穀雨」と呼びます。天からの贈り物でもある恵みの雨がしっとりと地上に降り注ぎ、恵みの雨が百穀を潤し、種まきに最適な時期を迎えます。この言葉は「雨生百穀(うりゅうひゃっこく)」に由来すると言われ、”春雨が百穀を生む”という意味があります。
『万葉集』の中にも、春雨の頃の奈良の景色を愛おしんだ歌があります。春雨で増水し、激しく流れる明日香川の瀬音を「今すぐ行って聞きたい(聞くことができたらいいのに)」と、その風情を懐かしむ叙情的な一首です。

また、穀雨の終わりに訪れる「八十八夜」(立春から数えて88日目)は、茶摘み歌などでも知られ、農作業に縁起の良い日とされています。茶葉の産地では新茶の茶摘みが始まり、この新茶を飲むと「一年間無病息災で過ごせる」とも言い伝えられています。
今回の茶会では、しとしとと降り注ぐ春雨と芽吹き始めた新緑をイメージした茶菓と共に、蓋碗で淹れる玉露をご提案します。

蓋碗とは、「天・地・人」を象徴する蓋・碗・受け皿(茶托)の3パーツで構成される中国の伝統的な茶器です。急須の代わりとして茶葉を浸出させたり、直接お茶を飲んだりする万能な道具です。

「日本茶を淹れる道具としては、あまり馴染みがないかもしれませんが、実は茶葉を扱いやすいんです」と、ようさん。普段から急須でお茶も淹れるよりも蓋碗を使うことのほうが多いそうで、道具選びのポイントを教えてくれました。

「まずは形で選ぶより機能性が大事だと思います。私が愛用しているのはシンプルな白い陶磁器です。繊細な薄さが気に入っていますが、口の部分が開いているので熱さが気にならず、指の三点で持てるので使いやすいんです。自分の手のサイズに合ったものを選ぶと良いですね」

「なかでも玉露は低めの温度で淹れるので、蓋碗で淹れるお茶として理にかなう」とも。蓋をしてゆっくり蒸らした後は、すっと蓋をずらして注ぎます。茶器の縁から糸のように垂れる玉露は、まさに春雨を彷彿とさせるような繊細さです。最後の一滴まで玉露を注ぎきり蓋を開けると、濃厚な茶葉の香りがふわりと広がります。

あかねさす 昼は田賜びてぬばたまの 夜の暇に摘める芹これ
これは奈良時代前期に聖武天皇に仕えた正一位左大臣・橘諸兄が詠んだ一首です。「昼の労働がおわり、真っ暗な夜、公務のあいまに、摘んだ芹なのですよ。これは」と、昼間は仕事に励み、夜の貴重な時間を使って摘んだ芹であると、誠意を込めて相手に贈る様子を詠んでいます。
今回、玉露に添えられた茶菓は芹のきんとんです。寒さで香りと旨味が増し、4月から5月にかけて旬を迎える春セリは新芽が柔らかく爽やかな香りも楽しめます。

「生命力ふれる摘んだばかりの芹の風味を楽しんでいただけたらと、しっとりと濡れる土に新芽が芽吹く春の景色を表現してみました」と、ようさん。
ふわふわの綿毛ように軽やかな、白と薄緑色の美しい餡を纏ったきんとん。スッと楊枝を通すと、中から土を表現したという、えりも小豆の粒あんが顔を出します。

「空気を召し上がっていただきたい」と、丁寧に裏ごしした後にそぼろ状に仕立てた餡の、なんと口溶けの軽やかなことでしょう。表面を覆うエアリーな芹餡から確かな芹の風味が香り、こし餡に忍ばせた山芋のねっとりとした食感とのコントラスで、口の中で爽やかな苦味が膨らみます。
続いて玉露を口に含めば、お茶の爽やかさがより際立ち、旨みと甘みが増幅します。新緑の味覚を込めた一服のひととき。軽やかさとしっとり感が共存する茶菓が、穀雨の春の景色を運んでくれます。
今月選んだお茶は…玉露「天下一」濃厚な味で通好みの玉露です。凝縮されたうま味と甘みは、ひと口で違いがわかります。袋入のお茶を和紙の包み袋で、プチギフト、手土産、お返しなどにもお使いいただけます。
