冬の酸味を、やさしく受け止める一杯。
コース料理の最後に小さなエスプレッソが添えられるように、“食後のお茶”があることで、一皿の余韻はさらに広がります。家庭でつくれる身近な料理に合わせて、伝統あるお茶の魅力を再発見していただく企画。料理の背景や作り方の工夫、そしてその一杯が生み出す調和を、料理研究家の夏井景子さんと担当編集者の対話を通じて紐解いていきます。
ー 今回は「国産レモンのアップサイドダウンケーキ」をご提案いただきました。その理由を教えてください。
夏井 国産レモンは冬が旬で、ちょうど一番出回る時期なんです。せっかくならその季節感を生かしたケーキを作りたいと思って、国産レモンを使いました。
ー 「アップサイドダウンケーキ」という名前を初めて聞いたのですが、一般的なケーキなのでしょうか?
夏井 すごくメジャーというわけではないですが、パイナップルやりんごで作ることが多いケーキです。特にパイナップルのアップサイドダウンケーキが一番知られているかもしれません。
ー 最初にフルーツを敷いて、その上に生地を流し、焼き上がりにひっくり返すんですよね。
夏井 そうです。上にフルーツをのせてしまうと、生地がきれいに膨らまないので、下に敷いて焼くのがこのケーキの特徴ですね。
ー 調理のポイントを教えてください。
夏井 一番はレモンの並べ方です。焼き上がってからひっくり返したときの見た目を意識して、きれいに並べるだけで仕上がりが全然違ってきます。
ー レモンがとてもきれいに並んでいて食欲がそそられるビジュアルですよね。レモンの厚さはどのくらいが良いのでしょうか。
夏井 はい。だいたい3ミリくらいの厚さに切って、先にシロップで軽く煮ます。ただ、煮すぎるとレモンが崩れてしまって、きれいな形が出なくなるので注意が必要です。
ー レモンをシロップで煮ているので甘さはありつつ、皮のほろ苦さも感じる、大人っぽい味わいでした。合わせたお茶は静岡「かけがわ」ですね。
夏井 レモンは皮ごと使っているので、どうしても苦味は少し出ますよね。その苦味を、掛川茶のまろやかさがやさしく受け止めてくれる印象でした。
ー たしかにお茶をひと口含むと、その苦味がふっと丸くなるような感覚がありました。全体がやさしくほどけていく感じです。
夏井 そうですね。「かけがわ」自体がとてもバランスのいいお茶で、渋みが強すぎないので、苦味同士がぶつからないんです。むしろお茶の旨味が間に入ることで、レモンの酸味や甘さがきれいに立ち上がる印象でした。
ー なるほど。「かけがわ」の“バランスの良さ”があるからこそ、レモンの持つ酸味や苦味も、尖らずに心地よく感じられるんですね。レモンの酸味や苦味とも相性が良かったです。
夏井 まだ寒い時期ですし、家でお茶を淹れてほっと温まる、そんな場面に使いやすいお茶だと思います。価格的にも手頃で、味のバランスもいいので、日常のお茶としておすすめしやすいですね。
ー 贈り物としても、お茶のある暮らしを始める人にとって、入り口になるようなお茶ですね。
夏井 2026年に向けて、「ちゃんとしたお茶を飲む生活を始めたい」という方にとって、最初の一つとして選びやすいお茶だと思います。気負わず取り入れられるのがいいですね。
レモンの酸味とほろ苦さ、そして焼き菓子の甘い香り。そこに寄り添う、「かけがわ」のバランスの良い味わい。
冬の午後を軽やかに締めくくる一杯が、食後の時間に心地よい余白を残します。
“〆は、お茶で。” その一服が、日常に静かなリズムを取り戻してくれるでしょう。
今月のレシピ
国産レモンのアップサイドダウンケーキ(15cm型1台分)
【材料】
・バター(食塩不使用) 100g
・砂糖 80g
・卵 2個
・レモンの絞り汁 大さじ2
・アーモンドパウダー 20g
・レモン 2個
A
・薄力粉 100g
・ベーキングパウダー 小さじ1⁄2
B
・水 150g
・砂糖 90g
・シナモンスティック 1⁄2本
・レモン汁 1⁄2個分
【つくり方】
(準備)
バターは薄切りにして大きめのボウルに入れ、室温においてやわらかくしておく。オーブンは170℃に予熱する。卵は小さめのボウルに割り入れ、よく溶きほぐしておく。
①レモンをシロップで煮る。レモン1.5個分を3mmの厚さに輪切りにする。残りのレモンは搾る。鍋に(B)を入れ火にかけ、砂糖が溶けたらレモンを入れ弱火で5分ほど煮る。バットにあげよく冷ます。
②型にオーブンシートを敷き底に1のレモンを並べる。
③バターを泡立て器でよく練り、砂糖を加えて白っぽくなるまでよく混ぜる。溶き卵を少しずつ加え、そのつどよく混ぜる。
④レモンの絞り汁、アーモンドパウダーを加えてさらによく混ぜる。(A)をふるい入れてゴムべらでさっくりと混ぜ合わせる。
⑤型に生地を入れて表面を平らにならす。170℃のオーブンで約40分焼く。(竹串で刺して生地がつかないことが焼き上がりの目安)
⑥焼けたら型を外し、底を上に向けレモンを煮た時のシロップを大さじ2分染み込ませる。網にのせて十分に冷ます。